解ける螺旋
――そして。
それが今。


私と健太郎が運命の恋人だなんて言われると落ち着かないけど、だからこそこれだけ心が乱されているんだと実感する。


今の私。


正直なところ、これまで自分が健太郎をどう想っていたのか、今となってはもう曖昧だった。
だけど、今の私は、あの誘拐事件以降、愁夜さんに出会うまでは危険な目に遭わずに過ごして来た。
他の世界の私が健太郎に恋をしたと言うなら、それはきっと、いつも健太郎が私を守ってくれていたからなんだと思う。


それは愁夜さんが干渉した世界だけで起きたこと。
そして、皮肉にも愁夜さんの望むものじゃない。


だから愁夜さんはたくさんの世界を創り上げなくてはならなかった。
その足跡を出来るだけ残さない様に。
私を殺すタイミングを細部まで探し続けて。


「パーティーが終わった後、時間との戦いになるのはわかってた。
だから俺は、この世界で初めて奈月達の世界に入り込む事にした。
子供の君と違って、大人になった君を殺す為に近付けば警戒される。
警戒されたら失敗する。
だからこうして大学院の助手として君達の傍に潜んだ。
どれだけ近付いても警戒されない距離。
奈月の心から警戒を消す為にこの関係をキープしたまま、チャンスが来るのを待った。
……だけどこの距離が仇になったなんて。
俺との関わりを持って、君達の記憶が混濁する事は想像も出来なかった。
奈月と結城が俺に不審感を抱いて、警戒する様になったら、この世界に意味が無くなる。
……だから、手っ取り早い方法を実行した」


そう言って、愁夜さんは私から微妙に視線を逸らした。


「油断させて殺すタイミングを狙うよりは、俺がこの手で結城から奪う方が手っ取り早かったから」


はっきり言われたら、さすがに心が痛んだ。


わかってたのに。
愁夜さんが私に近付いたのは、何か目的があるからだって。
だけどわかっていたって、ショックなものはショックだった。
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