解ける螺旋
◇
「……奈月、今日時間あるか?」
学会まで後一週間。
論文も大詰めを迎えて少し休憩をしていた時、健太郎がいつもと違う声色で話し掛けて来た。
顔を上げると、健太郎は微妙に視線を外しながら、目を宙に彷徨わせる。
「何?」
――怪しい。
こんな雰囲気の健太郎は、長い付き合いの私でもあまり馴染みがない。
「約束しただろ。西谷さんとこ、会いに行くって」
あ、と声を漏らした。
だけどすぐ、え? と聞き返す。
そう言えば西谷さんのお兄さんに会う約束をしてた。
だけどもう今となっては、会わなくても結果はわかってる。
この世界の西谷さんのお兄さん、西谷愁夜さんの姿を確認するって事は、愁夜さんの話を裏付けるだけで私にも健太郎にも意味はない。
愁夜さんから話してもらった事は健太郎にも伝えた。
だから健太郎だってわかってるはずなのに。
「……ごめん。私、遠慮したいかも」
申し訳ないと思いながら肩を竦めると、何故か健太郎が焦った声を出した。
「え? ……頼むよ。
確かにもう会っても意味無いかもしれないけどさ。
……せっかく楽しみにしてくれてるのに、悪いから」
いつもの健太郎らしくない。
一言で言えばしつこい。
だから私は、言うべきじゃないとわかっているのに、つい口に出してしまった。
「……西谷さんが楽しみにしてるのは、健太郎に会う事だよ。
なんで気付かないの」
そんな事ない、という反論が返って来ると思ってたのに。
健太郎は言葉に詰まって、バツが悪そうに俯いた。
「……奈月、今日時間あるか?」
学会まで後一週間。
論文も大詰めを迎えて少し休憩をしていた時、健太郎がいつもと違う声色で話し掛けて来た。
顔を上げると、健太郎は微妙に視線を外しながら、目を宙に彷徨わせる。
「何?」
――怪しい。
こんな雰囲気の健太郎は、長い付き合いの私でもあまり馴染みがない。
「約束しただろ。西谷さんとこ、会いに行くって」
あ、と声を漏らした。
だけどすぐ、え? と聞き返す。
そう言えば西谷さんのお兄さんに会う約束をしてた。
だけどもう今となっては、会わなくても結果はわかってる。
この世界の西谷さんのお兄さん、西谷愁夜さんの姿を確認するって事は、愁夜さんの話を裏付けるだけで私にも健太郎にも意味はない。
愁夜さんから話してもらった事は健太郎にも伝えた。
だから健太郎だってわかってるはずなのに。
「……ごめん。私、遠慮したいかも」
申し訳ないと思いながら肩を竦めると、何故か健太郎が焦った声を出した。
「え? ……頼むよ。
確かにもう会っても意味無いかもしれないけどさ。
……せっかく楽しみにしてくれてるのに、悪いから」
いつもの健太郎らしくない。
一言で言えばしつこい。
だから私は、言うべきじゃないとわかっているのに、つい口に出してしまった。
「……西谷さんが楽しみにしてるのは、健太郎に会う事だよ。
なんで気付かないの」
そんな事ない、という反論が返って来ると思ってたのに。
健太郎は言葉に詰まって、バツが悪そうに俯いた。