解ける螺旋
西谷さんが嬉しそうに用意してくれた紅茶を飲みながら、健太郎と西谷さんの会話を聞く。
初々しくて、何だか初恋を見ている気分。
自分自身にそれほど恋愛経験がある訳ではないのに、くすぐったくて焦れったくて、思春期の子供を見守る母親の様な気分になる。


ひとしきり二人きりの会話を終えたのか、健太郎が私に気遣ってくれたのは部屋に上がってかれこれ30分後。
それに気付いて西谷さんもハッとした様に私に目を向ける。


「す、すみません。
お招きしたのは私なのに、兄がまだ帰ってなくて。
でもすぐに戻って来るって連絡あったんで、待ってもらえますか?」


完全に蚊帳の外になっていた自分に、少しだけ寂しさを覚えながら慌てて首を振った。


「いいの。気にしないで。
お兄さんも忙しいのよね……。
実習中って言ってなかった?」

「……西谷さんの病気を治す為にって、医学部に進んでるんだっけ」


健太郎が思い出す様に言った言葉に、西谷さんがはい、と元気に答えた。


「……兄とは別々に育ったけど、たまに会える時、兄はいつも優しかった。
病気の私の事を気遣って、進路ですら私の為にって。
私は兄の重荷になってる自分が嫌だったんですけど、相沢さんのご両親の研究のおかげでこうして今も元気でいられて……。
全部相沢さんの……相沢さんのご両親のおかげです」

「……ありがとう」


西谷さんの言葉に泣きたくなった。


お兄さんに大事にされて来た西谷さん。
私の両親が研究を続けて治療薬を開発する事が前提の世界でしか、今こうやって彼女の笑顔を見る事が出来ない。


愁夜さんが経験した最初の世界では、私が死んで、両親の研究は打ち切られた。
西谷さんも20歳まで生きられなかった。


そうしてその後、愁夜さんは……。
西谷さんを救う為に、世界を創り続けた。


私を救う為ではなく。
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