解ける螺旋
曇りのない笑顔。
少し若さはあるけれど、そこには確かに愁夜さんの姿があった。
姿形はそのまま。
だけど、纏う空気はとても柔らかい。
健太郎もその姿を確認して、口を噤んでいた。


「……初めまして。お会いできて嬉しいです。
両親の研究が誰かの為になったんだなって思ったら」


私は少しドキドキしながらそう微笑んで、『西谷愁夜』さんはニッコリ笑った。
愁夜さんそのものなのに、醸し出す雰囲気が全然違う。


『西谷愁夜』さんは、私の不躾な視線を気にする事もなく。
だけど何かに気付いた様に、ジッと私を見つめて来る。
その視線が愁夜さんとは違うとわかっていながらも、確かにそこにある面影に、胸が疼いてならない。


「……あの。間違ってたらすみません。
俺たちあのパーティーの日、会ってますよね?
俺、ああいうの慣れなくてずっと庭に居たんですけど。……池の畔で」


躊躇いがちにそう言う『西谷愁夜』さんに、私も小さく頷いた。


「はい。
……けど、ごめんなさい。
私あの時人違いして呼び掛けちゃいました。
本当に失礼しました」


まだドキドキしながら、そう言って小さく頭を下げた。
それを聞いて、健太郎が眉をひそめた。


「奈月? お前、そんな事、一言も……」

「ごめん。だって、西谷さんのお兄さんだなんてわからなかったから」


健太郎の言葉を遮ってそう言い繕うと、『西谷愁夜』さんは明るい笑顔を向けてくれる。


「あ、確かに。あの時俺、なんて呼ばれたっけ。
……俺じゃないって思って普通にスル―しちゃったけど。
惜しいな、わかってたら絶対にあの場でお礼を言ってたのに」
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