解ける螺旋
あの庭園に居た訳じゃないのに、健太郎は全ての状況を把握してしまったみたいだった。
その上で、ニコニコしている『西谷愁夜』さんに胡散臭い視線を向けて、それから私を見て溜め息をついた。


「……ほとんど別人だろ……」

「え?」


明るく聞き返す『西谷愁夜』さんに聞こえない様に、私は隠れて健太郎の脇腹をつねった。


「……」


無言で顔をしかめる健太郎を無視して、私はゆっくりと立ち上がる。


「愁夜さん、お会い出来て良かったです。
でもごめんなさい、ちょっとこの後、用が。
健太郎、先に帰るね。
西谷さん、愁夜さん、良ければ、また」


私がそう言うと、『西谷愁夜』さんも立ち上がった。


「駅まで送りますよ。もう日も暮れたし」

「え?」


健太郎の言う通り別人だとわかっていても、そんな事を言われるとさすがにドキドキしてしまう。

だけど『西谷愁夜』さんは、少しだけ私に近寄ると耳打ちする様に呟いた。


「……すみません。俺、今どう見ても邪魔だから。
外に出る口実に付き合って下さい」

「……!」


耳元で囁かれる声は愁夜さんと一緒。
それだけで心臓がドキンとしてしまう。
そして、それには気付いた様子もなく、西谷さんが笑って答えた。


「行ってらっしゃい。
……お兄ちゃん、相沢さんに浮気したらダメだよ。
彼女に言い付けちゃうんだから」


そんな軽口に、『西谷愁夜』さんも引き攣った様な笑みを浮かべた。
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