解ける螺旋
私はもう一度樫本先生を見上げた。
新薬開発パーティーが開催される今日。
嫌でもあの誘拐事件や私の両親が誰かと交わした約束に思いが寄せられる。


このタイミングで出逢った人。
そんな人が『あの人』に生き写しだなんて、一体どんな偶然だと言うんだろう。


ありえない事はわかってる。
先生とは雰囲気も違うし、他人の空似だと思えた方がどう考えてもすっきりする。


だけど私の前にいる樫本先生は、怖いほどに良く似ている。
もしかしたら一目見て彼をミステリアスでアンバランスだと感じたのは、優しげな先生と厳しい表情をしていた『あの人』の矛盾なのかもしれない。


だからこそ、ありえないんだと思うのに、確かめずにはいられない。


「……あの。樫本先生って、何歳ですか?」

「は?」


樫本先生と健太郎の声が被った。
二人からしたら私の言った言葉は、あまりにも脈絡がなかったのかもしれない。


「……奈月。だからなんで今この話の流れで、逆ナンに戻れるんだ?」


健太郎にはやっぱり、私の頭の中での思考の流れなどわかるわけがない。
樫本先生は少しだけ笑って首を傾げただけだった。


「だから、そう言うんじゃなくて!
……やっぱり私、樫本先生に会ってませんか?
13年前、あの事件の時……」

「え?」
< 23 / 301 >

この作品をシェア

pagetop