解ける螺旋
こんな短い時間じゃ足りない。
もっともっと傍にいたい。
やっと、愁夜さんが好きだと気付いたのに、このまま逢えないなんて切なすぎる。


「……もう、好きにしたら」


呆れたような、だけど優しい声が頭上から降りて来た。
顔を上げると、愁夜さんが私の頬に両手を添える。
そのまま顔を上向けられて、真っ直ぐに愁夜さんと見つめ合った。


「別に奈月が待ってるだけなら、勝手だから。
けど俺は五年後にまた会おうなんて約束は出来ないし、俺が帰った未来に君が居なくても捜さない。
誰といようと何をしてようと、君に文句は言わせない」


どう考えても不利な条件だと思った。
だけど、私を覗き込む揺れる瞳は、私に祈ってるみたいだって感じた。


待ってて欲しいと、傍にいて欲しいと。
そう言われている様な気がして、私は強がって微笑んだ。


「文句なんか言わない。
今度は私が、愁夜さんを奪うから。
どこにいても、絶対に見失ったりしないから」


真っ直ぐ見つめ合ったままで、私ははっきりとそう伝えた。
すぐ目の前で、愁夜さんが小さく苦笑した。


「……まあ、あんまり期待しないでおくけど」

「ダメです。五年後に会ったらその時は、絶対に愁夜さんにも言わせるんだから」

「え?」

「私の事が好きだって」


まるで挑む様な言葉だったと思う。
愁夜さんは一瞬目を丸くして、だけどふふっと声を出して笑った。
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