解ける螺旋
もしこの世界で真美が生きているなら。
幸せになってくれたなら。
俺がこれまでに辿った世界での経験を、今の俺は知らない事になる。


だからこそ、これは新しく迎えた世界なんだ。


俺は逸る気持ちを抑えて、自分の身体を見回した。
白衣を着ている事にそれ程違和感はない。
そして身体中どこを探しても、いつも俺の手から離れる事のなかった座標計算機が見当たらない。


念を入れてソファの下も、部屋の中も探し回った。
だけどやっぱり見つからない。


確かめる毎に期待が膨らむ。
無くなったと言う事は、今ここにいる俺には作る必要が無かったからだと考えていい。


つまり。
やっと成功した。
きっと今この世界では、真美が生きている。


90%は成功した、と信じてもいいだろう。
そう実感して、何とも言えない気持ちになる。


ホッとした様な、心が軽くなった様な。
同時に、今の自分の状況を確かめる余裕が出て来る。
そして、一気に不安が過った。


――この世界の俺は、これまでどうやって生きて来た人間なんだろう。
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