解ける螺旋
『あの事件』と言う言葉に、健太郎も戸惑った表情を浮かべる。
私が本当に聞きたい事が何なのか、理解したのかもしれない。


だけど。


「28歳だけど。
……さっきから言ってる『あの事件』って何の事かな?
僕の年が何か重要?」


樫本先生の返事に、私は何も答えられなくなった。
当たり前と言えば当たり前なんだけど。


「……そう、ですよね。
あ、あの! それじゃあご両親やご兄弟は!?
……樫本先生に良く似た誰か。
私が会ったのは、その人なのかも……!」

「……残念ながら、僕の両親は妹が生まれてすぐ事故で亡くなった。
兄弟は妹だけ。
……今の僕に良く似た人物で君が会ってる可能性がある人は、いないんじゃないかな」


勢い込んで聞いた私に、樫本先生は少しだけ困った様にそう言った。
それを聞いて、当たり前のことなのに少しだけ失望する。


――そうだよね。
13年前、誘拐事件で私を助けてくれたのが、今この場にいる樫本先生の訳がない。


だって今28歳だと言うなら、その当時、先生はまだ15歳。


本当に樫本先生が『あの人』だったとしたら、先生の年齢は若く見積もっても30代後半になっていないとおかしい訳で、どう見ても先生がそんな年には見えない。


だけど他人の空似なんだと思おうとはしても、こんなにそっくりな人がいるもんなんだろうか。
無理矢理同一人物だと思おうとすると、どうしてもタイムパラドックスに陥る。
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