解ける螺旋



手術を終えて着替えを済ませると、俺は最初に目覚めた部屋のソファに戻って身体を深く沈め込んだ。


急患は助かった。
今は呼吸器を装着してICUで完全看護を受けている。
臨床で手術の経験などないはずの俺は、焦る心だけを取り残して、無難に手術を終えていた。


そう――


手術をやってのけた自分の手を、俺は黙って見つめた。


俺の身体にある記憶と経験。
どんなに俺が戸惑っても、この世界を生きて来た俺の身体は、手術を簡単にやってのけた。
心と身体の分離。
それを身を持って体験して、俺はこの未来を理解出来た。


無数に広がった世界は、一つに集約された。
この世界には何の矛盾もない。


ただ一つだけ。


――数多の世界を壊して来た、俺の存在を除いて。
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