解ける螺旋
真美の為にならないなら、これ以上世界を増やす必要はない。
そう理解しているのに。
俺は過去のどこかの地点に跳んで、二人が結婚に至るこの世界を壊したいと思った。


俺が望んだ未来は手に入れたとわかっているのに。


そう。
二人の結婚をぶち壊す未来を望むのは、真美じゃない俺だ。


今度は、俺自身の為に――


――バカバカしい。
そんな事を考えるなんて、どうかしてる。


俺は大きく息を吐いて、衝動に突き動かされそうな自分を抑えた。


落ち着け。
そんな事しても、もう何の意味もない。


「お兄ちゃん? 大丈夫? 顔色悪いよ」


病人で入院患者の真美に、医者の俺が心配された。
それに俺は、心底から苦笑する。


「当直、疲れただけだよ。
大丈夫。今日は帰ってゆっくり休むから」


そう誤魔化して、ベッドサイドから離れた。


「うん。またね。無理しないでよ」


真美に心配されるなんて、ありえない失態だ。
俺は背中を向けてから手を振ると、真美の病室から出た。


朝の賑やかな病棟を、白衣に手を突っ込んで歩いた。
すれ違う看護師や医者がお疲れ様、と声を掛けてくれる。
それに会釈だけを返して、俺の心はざわめいていた。


自分でもありえないと思う位動揺して、居ても立ってもいられない。
一体何がこんなに俺の心を乱すのか――
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