解ける螺旋
世界には生き写しの様にそっくりな人物が三人いるとは言うけれど、それとこれとはまるで違う。
単に私の思い違いだと解釈した方が、この場の話は纏まる気がした。


ドッペルゲンガー現象、と言うには時間軸が違う。
しかもそれって、結構縁起でもない。


「……ったく、奈月、お前な。
仮にも物理学を研究している人間が、何を恍けた事言ってるんだよ。
本気で樫本先生を口説きたいなら、もっと違う方法でしろ。付き合い切れない」


それまでにない深い溜め息をついた健太郎に、私はハッと我に返った。


「な……!? 違う、そんなんじゃないよ!?
ただ、本当に似てるから。
……あの時私を助けてくれた人に」


必死に訴えたその言葉に、健太郎は呆れて樫本先生は苦笑した。


「ドラマみたいだな。
奈月の命の恩人が、樫本先生に生き写しだなんて。
お前のヒーローがこんなイイ男だなんて、いくらなんでも出来過ぎだろ」

「……ヒーロー? よくわからないけど。
もし本当に僕がその恩人だったら、役得なんだけどね」


私にとっては本気で真剣な事態だったのに。
健太郎の一言で、結局流されてしまった様に終わった会話。


考え込む私を余所に、健太郎も樫本先生も他の話題に移って行った。
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