解ける螺旋
無意識に運転して辿り着いたマンションの駐車場に車を停めた。
そして勝手に動く身体に任せて部屋の前に着いて、俺は足を止めた。
コートのポケットから鍵を取り出す。


鍵穴に挿し込むのももどかしい。
ついイライラしそうになった時、後ろから声を掛けられた。


「おはようございます。今お帰りですか?」

「え?」


隣人か?
マンションの隣人と親しく挨拶を交わす生活をしていたとは思えないけど。
そう思いながら振り向いた。


急ぐんだ、放っておいてほしい。
だけどこの状況で無視出来る程、俺も非常識じゃない。


「おはようございます。
……すみません、ちょっと急いでるんで、お話ならまた……」


そう言いながら声の主の姿を認識して、俺は言葉を失った。


「そうですか。
お疲れのご様子ですもんね。失礼しました」

「……奈月?」


言葉の途中で声を遮った。
俺の表情の変化をしっかり見ていた彼女は、もう途中から笑みを浮かべていた。


「……やっと、お帰りなさい、ですか?」


そう首を傾げて。
俺を探った瞳は俺の良く知っている光を放つのに、どこか雰囲気が違う。


当たり前だ。
今俺の前にいるのは、今までに見た事のない奈月。


28歳になった奈月なんだから。
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