解ける螺旋
「……やっぱり、100%私が知ってる愁夜さんって訳じゃないみたいですね。
『樫本愁夜』さんは強がりながら残酷に振る舞う人だったのに。
あなたは『西谷愁夜』さんだから。
笑っちゃう位毒がないです」

「……」


事態は飲み込めないまま、それでも状況は理解して、俺は幾分平静を取り戻した。


「……それで?
君は俺に押し付けた勝手な約束を守る為に、あの後の『西谷愁夜』を見張っていたの?
五年間も、脇目も振らずに?
五年後に俺が戻るかもわからないのに?
……呆れた」


そうであって欲しいと思ってるくせに、毒がないとか言われたら、口から出るのは意地を張った言葉でしかない。
しかも奈月がそうだと言ってくれるのを願っていた。
そうじゃなければ、この数時間の俺の焦りをどうしていいかわからない。


だけど確かに、こんな俺はらしくない。
俺自身、自分の人格がどこにあるのか曖昧なまま。
全ての世界を集約した俺を知っている奈月を前に、虚勢を張りたかっただけかも知れない。


こんな憎まれ口も、奈月なら受け流すだろうと思っていた。
強気に、だけどあの約束を本気で言っていたならば、食い下がって来ると。


そうやって俺は、奈月を試したかったのかもしれない。
奈月の言う通り、今の俺は多分奈月の心を動かした俺とは違うかもしれない。
それでも、あの時と同じ言葉を言えるのか。
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