解ける螺旋
泣いている奈月を無意識に抱き寄せた。
奈月の目尻に滲んだ涙を、黙って指で掬い取る。
俺の腕の中で、奈月の身体が小さく震えた。


俺にとってはほんの少し前の事。
だけど奈月は五年という年月を一人で待ち続けた。


それが俺が体験して来た幾つもの世界と重なる。
俺の知らない五年間、奈月は孤独で。
ただ俺に押し付けた約束の為だけに。


奈月は震えながら俺の胸にしがみついていた。
もちろん、俺は拒まない。


「……ごめん、奈月」


素直に声が出た。


「……許さないです」


五年も経つのに、意地っ張りなところは変わらないらしい。
俺は、仕方なく、と言うか。
半分以上自分の欲求だけで、キスで宥めようと奈月の頬に触れた。
胸元から奈月が見上げて来る。


だけど。


「……っ!」


涙目のまま見つめられて、戸惑った。
頬を撫でていた手が強張るのを感じる。
キスどころか、顔を近付ける事も出来ず、俺は誤魔化す様に奈月の頭を胸に強く抱きしめる。
奈月も何も言わずに俺の背中に腕を回した。
< 256 / 301 >

この作品をシェア

pagetop