解ける螺旋
――ヤバい。
ドキドキしてる。


奈月はこの音に気付いてるだろうか。
いや、結構鈍い女だから、このままスルー出来るかもしれない。


今、自分が何に動揺したか位わかってる。
ここに居るのはあれから五年を過ごした奈月で、今までに見た事のない28歳という年齢になっている。
考えた事はなかったけど、俺と同い年なんだ。
間近で見るとやっぱり見慣れない。
姿形が変わった訳じゃない。
五年経っても何かが大きく変わった訳じゃないのに。


――なんて言うか、すごく綺麗になった。


今まではかなり年下、下手したら親子にもなれる様な年齢の奈月とばかり会っていたから、いきなり大人びたいい女になって現れて来られても。
実際、今の俺の身体に、奈月に対する免疫はないのかもしれない。


反則だろう、と小さく呟いた。
そんな声が聞こえたはずがないのに。
いつの間に泣き止んだのか、ねえ、と奈月が少しだけ頭を離す。


「緊張してるでしょ」

「っ!?」


からかう様な声に息を飲んだ。
すぐに誤魔化そうとしたのに、奈月は俺の胸を指でつつく。


「すっごいドキドキしてますよ?
……あ、そっか。そりゃそうですよね。
私は愁夜さんに会った事あるけど、愁夜さんは今の私を初めて見るんだもん。
初対面みたいなもんですもんね。
もしかして人見知りとかしてますか?」

「……なんでいきなり上から目線なんだよ」


完全に言い当てられて、もっと心臓がバクバク言う。
それもまたすぐに気付かれるだろうから、もうどうにも隠し様がない。


「だってよく考えたら、私って愁夜さんと同級生なんですよね?
今の愁夜さんはこの世界に初めて降り立ったんだし、私の方がいくらか立場有利だと思いません?
あ。同級生なんだから敬語もいらないか……」


上目遣いで俺を見上げる奈月の瞳。
彼女の言う通り、初めて会う28歳の奈月は、悔しくなるくらい大人だった。
その目がやけに艶っぽくて、どうしようもなくドキドキしてならない。


「……君、性質が悪いよ」


悔しくて、負け惜しみだとわかっていても、乱暴に抱き寄せた。
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