解ける螺旋
それでもまだ少し納得出来ずに、私は先生を横目で見ていた。
先生があんな厳しくて険しい顔をする事があったら、本当に似てると思うんだけど……。


そう、私が感じる違いはその雰囲気だけだった。


十歳の私があの状況で見た『あの人』
今23歳の私が出逢った樫本先生。


リアルタイムで同時に見る事が出来たら、別人だと納得出来る違いはあるのかもしれないけれど。
姿形の似ている人を目にして、今の私の認識が、記憶の中の『あの人』の情報を操作した可能性もある。
もしかしたらただの願望だって可能性もなくはない。


――やっぱりありえないかなあ。


それ以上はもう説明が付かず、私は溜め息をついた。
そんな私を見て、いつも穏やかな表情を浮かべている教授だけが、少しだけ首を傾げていた。
その視線に気がついて、私は曖昧に笑顔を浮かべて見せる。


「……相沢さんの記憶に間違いがなければ、君達の研究に面白い仮説が立ちそうですね」

「は、ははっ」


あまりに小声だったから、私もそれほど気には止めなかった。
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