解ける螺旋
「……五年も。
あんな軽いキスを残されただけで待ったんだから、いきなりも何もないんです。
しかも、あの頃の西谷愁夜さんには彼女いたし。
……ほとんど別人なんだって割り切ってても、五年経つ前に結婚したりしちゃったらどうしようかって、本気で焦ってたんだから。
キスくらいさせて下さい」


目を伏せた奈月に、俺の知らない五年間の俺が見える様な気がした。


「……あ。そういや俺って、今彼女いるのかな」


口元を手で覆いながら半分独り言みたいに呟いて、微妙に視線を宙に彷徨わせた。
奈月が少しだけ頬を膨らませて、不機嫌になるのがわかって気持ちいい。


「留学前にその彼女とは別れたんですよ。
まあ、アメリカに行ってる間の事は知らないし、正直なところこっちに戻って来てからも情報収集出来なかったんですけど。
……でも、五年も待ったんだから誰がいたって奪いますから」


そう言ったでしょ? と言いながら、奈月は容赦なく俺に唇を合わせる。


――奪うって。


本気かよ、とさすがに呆れたけれど、こうして奈月が傍にいる事を感じると、マンションに戻る前までの焦りや不安がまるで嘘の様に消えていた事に気付く。
奈月が傍にいない事にであんなに孤独を感じて焦った位なんだから、多分いい方に考えれば、俺に今彼女はいないと思っていいんじゃないかと思った。


何よりも、こうして熱い深いキスを繰り返しながら、俺自身が奈月を求めている。
俺には記憶がなくても、この身体はこの五年間の記憶が沁み込んでるんだから、彼女がいる状態で奈月を求めたりはしないと信じる。


それに。


――奈月のヤツ。
どこでこんなキス覚えたんだ。


そんな疑問が過って、なんだかムッとする。
そして奈月の背中に回した腕にグッと力を込めた。
ただされるだけだったキスも、俺は自分から求めに行く。
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