解ける螺旋
奪われるキスを奪うキスに変えて行く。


「……しゅう……」


空気を求めて離れた唇が、俺の名前を呼ぶ。
見上げる瞳は潤んでいて、何と言うか、朝っぱらから、とか言ってたくせに十分に俺を煽ってる。


――本当に性質が悪い。


俺は少しだけ身を屈めて、奈月の耳元で囁いた。


「……寝室に行けば、彼女がいるかどうか、痕跡位見つかるんじゃない?」

「っ……!!」


奈月の頬が少し赤くなるのを確認しながら、俺は軽く息を吐いて笑った。
俺自身はなんとなく確信してはいるけれど、それ位はちゃんと確認しておきたい気分でもあった。


「一緒に住んでる気配はなさそうだなあ。
後はそうだな、バスルームとか、洗面台とか?
よく考えたら俺もこの家に入るの初めてなんだ。
……一緒に確認しようか?」


少しだけ腕の力を緩めると、奈月の反応を確認する為に顔を覗き込んだ。
奈月は少し悔しそうに唇を尖らせている。


「……最低」

「押し入って来たのはそっち。
奈月は朝っぱらからって言うけど、悪いけど俺当直明けだし、これから寝るとこだから。
……付き合うつもり、ある?」


半分以上奈月の答えをその瞳に確信して、俺はクスクスと笑いながら奈月の首筋に顔を埋めた。
奈月はくすぐったそうに身じろぎして、だけど俺の胸を手で押し返して来た。


「……ちゃんと彼女がいないって確信出来たら」

「……」


煽るくせに、簡単には流されてくれないらしい。
俺は溜め息をつきながら奈月から身体を離した。
そして軽く髪を掻き上げて欠伸を堪えながら、先に部屋に足を踏み入れた。


――さて、俺の知らない五年分の記憶探しだ。
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