解ける螺旋
半分以上は本気でからかったつもりでいたけど、結局、本当にただの記憶探しになった。
最初は物珍しさだけ。
俺がこの未来で住んでいる様子のマンションの部屋を、二人で探検するみたいに見て回った。


そうやって見て回れば、やっぱり俺の身体がこの部屋を覚えている事を知る。
だけど思った程に馴染みがなかったのは、この部屋に住んでからそれ程経っていないせいだろうと納得する。


半年前に戻って来たと言っていた。
大学病院で医者として勤務しながら半年。
それじゃこの部屋にそれ程馴染んでいない事は想像出来る。


それだけでも当たり前かと思ったけれど、やっぱり彼女の存在を匂わせる様な物も空気もこの部屋からは感じられない。


それに結構本気でホッとして、奈月の表情も和らいでいく。


――奪うなんて強気な事を言った割に、本当はどう思っていたんだか。


俺は苦笑しながら奈月の横顔をチラッと見た。
俺の手をギュッと握り締めて部屋を見て回る奈月の横顔。
良く知っていると思っていたのに、今はちょっと眩しい。
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