解ける螺旋
軽くシャワーだけ浴びてリビングに戻ると、奈月はまだキッチンに立っていた。
探したって無駄だよ、と呆れながら寝室のドアを開けて。
ふと、立ち止まった。


俺が眠ってしまったら、結局奈月を一人で放置する事になる。
当直明けの俺が普段どんな睡眠をとるかわからないけれど。
他人の家にいて主が寝てしまったら、客は退屈するに決まってる。


だからって眠気には敵わない。
これはどうするべきなのか。


「俺、ちょっと寝るけど。……一緒に寝る?」


ほとんど無意識でそう言うと俺は奈月を振り返って、奈月に選択権を与えた。


「え!? ……あ。
……はああ。そっか、当直明けだもんね」


言い方がストレート過ぎたのか、奈月は一瞬だ目を丸くしてから、妙な顔をして溜め息をついた。
その表情を見て、あ、そっか、と納得した。


「期待させた? 彼女がいないか確認したら、って言ってたっけ」


欠伸を噛み殺してくぐもった声になるのを感じながらチラッと奈月を見ると、口を尖らせてソファの上のクッションを俺の背中に投げつけて来る。


何を今更照れてるんだか、と吹き出しそうになりながら俺はベッドに横になる。
開けたままの寝室のドアから奈月が入って来た。
どことなく緊張した様な足取りで俺の傍に来ると、奈月は黙ってベッドの端に腰を下ろした。


「……疲れてるでしょう? 眠って。
だけど私もここにいていい?」

「……ん」


奈月が俺の髪を優しく掻き上げる。
見られながら眠るのは慣れないけれど、触れ合ってもいないのに、奈月の体温が感じられる様な気がして。
俺は自分の手を目元に当てながら、少しだけ目を閉じた。
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