解ける螺旋



パーティー会場のホテルに着いて健太郎と一度別れると、私は用意された部屋で着替えを済ませてメイクをしてもらった。
こういう大掛かりなパーティーは健太郎に連れられて何度か出席したけれど、何度出ても堅苦しくて得意になれない。


今日は両親の研究の集大成となる新薬の発表なんだから、娘としては建前でも喜ばないといけないけど。


私は大きく溜め息をついた。


鏡の中には、着飾って見映えだけは整えられた私が、すごい浮かない顔をして映っていた。
今この場だからこそ、いつもなら記憶の奥にしまい込んでいるあの日の事が鮮明に思い出される。


とても怖い思いをした。
思い出したい記憶じゃない。
だけど忘れる事は出来ない、そして忘れてはいけないあの事件。


十歳のあの日。


学校が終わった後、研究で帰宅の遅い両親を待つ間、私は健太郎の家に遊びに行っていた。
私の両親と健太郎の両親は学生時代からの親友で、それぞれ進んだ道は違っていても家族ぐるみの付き合いは続いていた。
だから私と健太郎はほとんど一緒に育って来たと言っても過言じゃない。
本当の兄妹の様に子供の頃の写真はいつも一緒に写ってるし、学校の行き帰りも一緒。
それを特に不思議に思った事はなかったけれど。


あの日。


何故か些細な事で喧嘩になった。
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