解ける螺旋
ムキになって言い返す口調は、ついこの前までの奈月と変わらない。
必死になって俺を信じさせようと、奈月が口にする愛しいという言葉。


それを嬉しいと思っている俺は、時空跳躍を繰り返すうちにどれだけ人の心の温もりを欲していたんだろう。
自分で作り上げた孤独という罰に絡め捕られていたんだろう。
そしてどれだけ、そんな孤独が辛かったのか。


辛いと言う権利など、俺にはないに決まってるのに。


「……じゃあ、俺の傍にいて」


腕の中の確かな温もりは、俺に安心を与えてくれる。
凍り付いた心を溶かして、俺が甘える事すら許してくれる。
この温もりを失いたくないと思っているのは、手放していたはずの俺自身の心だった。


今までの俺だったらとても言えない恥ずかしい言葉も、今はすんなり言える。
これも、この世界の『西谷愁夜』がそれなりに幸せに過ごして来たせいなのか。


腕の中の奈月にも、それはそれで衝撃的な言葉だったんだろう。
微かに身体を震わせたかと思うと、小さく肩を揺らして笑い出していた。


「なんかくすぐったい。
愁夜さんがそんなにはっきり言ってくれるなんて思ってなかったのに。
だけど愁夜さんは、『西谷愁夜』さんの未来の姿だから。
オリジナルの性格も、どこかに融合されてるんですかね。
……どこか、甘えん坊な感じ」

「……茶化すな」


素で返されると少しだけ照れ臭い。
覗き込む奈月の視線を避ける様に、俺はそっぽを向いた。
それでも奈月の温もりは逃がさないとでも言う様に、身体に腕を回したままで奈月の髪を撫で続ける。


「嬉しいんですよ」


奈月が吐息混じりにそう呟いた。
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