解ける螺旋
「だって、五年前の愁夜さんは、自分の望む未来に私は要らないって言ったんだから。
あれ、言われた方はどれだけショック受けたかわかってます?」

「そんな事言ったっけ」


惚ける。
別に本気で忘れてる訳じゃない。


俺にとっては五年も前の事じゃない。
つい昨日言ったばかりの言葉なんだから。


そんな事を言っておいて、舌の根も乾かぬうちにあっさりと前言撤回している自分が、なんとも情けなくて仕方がない。


「……酷い」


案の定、奈月は頬を膨らませて怒った。
そして俺の胸を押して身体を離すと、不機嫌に背中を向けてしまう。
さすがにもう照れてる場合じゃない。
今ばかりは、この未来を生きている素直な好青年の俺の力を借りて、ちゃんと伝えておかないと。
俺は失う事の出来ない温もりを、手放す事になってしまう。


「ごめん、奈月」


そう言って、離れて行く彼女の背中を捕まえる。
両手を肩に置いて、奈月の耳元に顔を寄せた。


「さっきマンションに戻って来た時。
俺は本当に奈月と結城が婚約するなら、奪い返しに行こうと思ってた。
……時間なんか遡らなくても、今の俺のこの手で。
失える訳がない。君を愛してるから」


素直な率直な気持ちだったけど、言ってみると妙にこそばゆい。
だけど口に出してみて自覚した。
奈月が結城と結婚すると聞いてどうしてあんなに焦ったのか。
イライラして動揺して、また世界を創り変えるなんて考えたのか。


「……嘘、じゃないよね」


俺の素直すぎる言葉に飲まれたのか、奈月の声が掠れた。


「うん」

「夢見てる訳じゃないよね」

「現実だから。
本当言うと、奈月が俺を好きだって言う前から……」


そうだ。
五年前。
あの世界から戻って来る前から、俺はずっと――
< 274 / 301 >

この作品をシェア

pagetop