解ける螺旋
奈月の心を無理矢理結城から引き剥がす様な真似をしたのは、奈月を好きだったからじゃない。
だから俺を好きになられても困る。
好きになられても、俺はいずれ奈月の前から姿を消す人間だから、と。


だから、目的を達した後、奈月から向けられた想いは全否定した。


そして俺自身の気持ちは――


認める訳にいかなかっただけで、当然だけどわかっていた。
だから俺に近付く奈月を拒めず、俺自身も彼女を欲して、まさに二重のジレンマだった。


俺は奈月に関わりを持った事を後悔した。
あの世界を続ける訳には行かないと思ったのに、それまで躊躇いすらなかったのに、殺す事も出来なかった。


だから心を傷付けた。
奈月の中の俺の存在を憎むべきものとしなければ、俺の心が奈月に捕えられたまま、もう他の世界を創り出す事も出来なくなる。
望んだ未来を掴めないまま、これまでの苦労を無にするのが怖かったから。
それほどまでに俺は、五年前の奈月を好きになった。


だからこそ、俺は自分に言い聞かせなきゃいけなかったんだ。


――俺の望む未来に、奈月は要らない。


いつから俺の心は奪われていたのか。
奈月に向けて言った言葉を頭の中で繰り返して、俺は自分でおかしくなって、つい小さく笑った。


そんな事を口走らなければいけない程に、彼女を――
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