解ける螺旋
それを見て健太郎は柔らかい笑顔を向けた。

黙って見ていれば、とても優しい人にしか見えない。


「結城健太郎です。ようこそおいで下さいました。
僕と同年代みたいだし、そんなに緊張しないで下さい。
父の会社の研究に協力してくれて、こちらがお礼を言わなきゃならない位なんだから」


育ちのいい健太郎は、こういう時はさすがに見直してしまうほどスマートだ。
正直、私に対してもいつもこうだったらいいのに、とすら思う。
そんな事を考えながら、想像して苦笑した。


ダメだ。
毎日こんな健太郎と一緒にいたら、自分がお姫様か何かだって思いこんでしまう気がする。
そんなのあまりにもこそばゆい。


慣れない立派なパーティーで萎縮してしまっている病気の西谷さんも、健太郎の柔らかい口調で話し掛けられて、なんとか緊張もほぐれた様子だった。


「いえ、私の方こそ……。
私は病気で小さい頃からずっと、お医者様にも20歳まで生きられないって言われてたんです。
それが治験に参加させてもらえて、21歳になれました。
本当に感謝してるんです。結城さんのおかげです」


そう言ってもう一度頭を下げる西谷さんに、健太郎は爽やかに苦笑した。


「いや、僕は何も……。それに感謝なら彼女の方に。
あの薬の研究開発を進めて商品化にこぎつけたのは、彼女の両親だから」


健太郎の言葉に、西谷さんの視線が遠慮がちに私に向けられた。


「初めまして。相沢奈月です」


いきなり会話に入り込んだ様な気がするけれど、結局これも健太郎の『紳士的』な気遣いだ。
多分きっとこのまま見てたら、私は隣にいても会話に入れず蚊帳の外だっただろう。
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