解ける螺旋
目覚めた後。
結城財閥経営の病院で精密検査を受けて、私は警察の事情聴取を受けた。


まだ十歳だった子供の私、しかも誘拐事件の被害者。
事情聴取には健太郎の家が手配してくれたお医者様やら弁護士やら臨床心理士やらが立ち合って、妙に重苦しかったのを覚えている。


警察に犯人の特徴や何やらを聞かれた私は、目隠しをされていたせいで犯人の顔はわからないと答えるしかなかった。


男の人、数人で。
声は聞いたけど、十歳の私があの状況で聞いた声を再現も説明も出来る訳がない。
いろんな声のサンプルを聞かされたけど、これ、と言える様なサンプルには行き当たらなかった。


それと同時に、私を助けてくれた『あの人』の事も証言した。


『あの人』に対する私の説明が、『カッコよくて優しいお兄ちゃん』だったから警察も困り果てていた。
今思えば、自分でももうちょっと言い様がなかったのか、とは思うけれど。
実際のところ、警察では『あの人』は、犯人の仲間かまさに実行犯かもしれないと思っていたみたいだった。


私が誘拐されたその場を目撃した人がいなかった。
犯人は複数で手際が良かったせいで、警察は事件発生を知っても私の居場所を捜索すら出来なかったと言う。


しかも私が連れ去られたのはどこかの山中の山小屋だった。
それなのに『あの人』は私を犯人の手から救い出す事が出来た。


もちろん『偶然』の可能性はある。
だけど警察はその線を捨てた。


理由は簡単。
偶然私を救い出したなら、盗難車に私を放置するなどしなくていいはずだから。
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