解ける螺旋
情けない。学生にまでそんな心配をされるなんて。
さすがに抗議しようと顔を上げた時、健太郎の代わりにポジションに付いた学生が、大きく手を振って合図した。


「結城先輩! いいですかあ? 始めますよ~?」


なんだか能天気な声に、健太郎も手を振って答える。


「いいぞ~。いつでも来い!」


そんなやり取りに、一瞬緊張感が途切れた。


この研究室では危険な実験の合間でもこんな和やかな空気が流れる事は多々あって、私もいつもの光景に少しだけ苦笑した。


「じゃ、いっきま~す! スウィッチ、オン!!」


ポチ、っと音がしそうなボタンの押し方をして、学生が回路に電流を流した。
全ての繋ぎ合わせた回路に電流が流れて、放電してプラズマが発生するにはほんの数秒の後のはず。
そう思う時間もない位。


「……え?」


私は自分の観察地点のありえない現象に目を奪われた。


「……奈月!」


微かな火花が散った、と認識した時には、私は健太郎に肩を抱き寄せられていた。
回路に背中を向けた健太郎が小さく呻く声がして、私はハッと我に返る。


「マズい! 早く消火器!」


遠くで樫本先生の声がした。
その声と同時に、私はその場で起きた状況を目にした。


「う、そ」


火花を散らせたコードが燃えていた。
そしてその火から私を守る様にしていた健太郎が小さく眉を寄せている。
駆け寄った学生が燃えているコードに消火器を噴射して、直ぐに火は治まったけれど。


「……健太郎!?」


私を庇う健太郎の身体をどかして、私は息を飲んだ。
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