解ける螺旋
事故ではあるけれど大事にならなったせいか、学生の間にもいつもの空気が流れ始める。
そして教授も苦笑いをしながら眺めていて、こんな空気を初めて見る樫本先生だけが渋い顔をしていた。


「結果オーライ、ね。
それで喜んでるんじゃ、マズいと思うんだけど」


溜め息をつく樫本先生に、学生がシュンと黙り込んだ。


「だけどまあ、相沢さんが火傷するよりは確かに良かったのかな。
……じゃあ、結城君が戻って来る前に失敗の原因を追及しよう。
コードを取り替えれば、もう一度実験出来るかな」


気を取り直した様な明るい樫本先生の声に、学生がみんな、はい、と答えた。


直ぐに失敗の検証を始める学生の姿にホッとした。
だけど同時に、私には不可解な気持ちが芽生えて拭えない。
計算、設定を間違えたなんて、健太郎のミスだとは思えない。
普段は小うるさい小姑みたいに、細かくて几帳面な人なんだから。


――なんだろう、この不安。


そう思った時初めて、自分が何かに不安を抱いている事に気が付いた。
そうして自分で笑い飛ばす。


ちょっとした実験中の事故なら日常茶飯事だ。
これまでの経験を踏まえても、正直これ以上の失敗はいくらでもある。


だから気にしない。気にしなくていい。
そうやって私は気持ちを切り替えた。
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