解ける螺旋
先生も大きな荷物をドサッと置くと、軽く肩を叩きながら首を傾げた。


「さあね。僕は結城君の行動を監視する趣味はないから。
……ところでさ。聞いてもいい?」


胸の前で腕組みをしてニッコリ笑う樫本先生に、私はもう本当に条件反射で身体を強張らせた。


「なんかその反応傷付くな。……まあいっか。
初めて会った時に結城君が言ってた『あの事件』って何?」

「え? あ、ああ」


突然と言えば突然だけど、初めて樫本先生と会った時の事を思い出す。


『あの人』にそっくりな先生の姿に驚いて、命の恩人と言う言葉まで発した割に、事件の事を先生に話す機会はそれ以後もなかった。
気にさせちゃったかな、と思うと申し訳ない様な、ちょっと嬉しい様な気分になる。


「私、十歳の時に誘拐された事があるんですよ」

「……は?」


確かに大事件だったし当時はかなり大騒ぎされたけれど、今となっては私は無事だしその後また狙われる様な事もなかった。
だけどいくらなんでもあっさり言い過ぎたのか、樫本先生は目を丸くしている。


「……誘拐事件なんてそんな大事件、なんでそんなあっさり言えるの」


樫本先生の反応は私の予想通りで、私はいつもよりも少しわかりやすい先生の様子につい微笑んでしまう。


「もう13年も前の事件ですから。
確かに怖かったのは覚えてるんですけど、私は救出されて無事だし。
あ、その……。その事件の時に私を助けてくれた人って言うのが、樫本先生によく似てるんです」

「ああ……。だから命の恩人でヒーローなんだ」


樫本先生は納得した様子を見せながらも、淡々と語る私に微妙な視線向けている。
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