解ける螺旋
私も樫本先生の横顔を眺めながら、十歳の時の自分と視界が変わったかどうかを確認する。
あの状況下で私を助けてくれた『あの人』がどう見えたか。
今の私に全く同じ物が同じ様に見える訳がないとわかっている。


だけど。


「……別人だってわかってるんですけど、やっぱりよく似てます。
実際、『あの人』の姿は私以外の誰も見ていないんです。
だからもちろん健太郎も知らない。似てる事を認めてくれる人もいない。
警察でも犯人の内の一人じゃないかって方向で捜査してたみたいです。
私も当時はムキになって『あの人』の事を証言してたんですけど……。
今となっては都合のいい夢を見たのかもしれない、とか思う時もあります。
だけど『あの人』にそっくりな先生と出逢って、やっぱりちゃんと捜したいって思いました。
それでちゃんとお礼を言わないと」

「……犯人の内の一人なのに?」


腕組みをして考える樫本先生を見つめながら、私は強く頷いた。


「私が伝えるお礼は、私を助けてくれた事についてです。
だから本当は誰か、なんて関係ないんですよ。
私にとっては命の恩人だって事に変わりはないから」


「……犯人の内の一人かもしれないのに」


繰り返し呟かれると、なんだかちょっと傷付く。
だけど私は敢えてそれ以上は何も言わずに、荷物をしまおうとロッカーに向かい掛けて、先生の声に足を止めた。


「結城君は君のヒーローには否定的な考えなんだろうね」


その言葉に私はつい肩を竦める。
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