解ける螺旋
「警察に限らず、健太郎も『あの人』を犯人の内の一人だって思ってるから。
それ以前に、そんな人がいたかどうかもわからないって言ってます。
……だけどあの事件の後も油断出来ないからって、私をいつも守ってくれました。
実際、あの後私達が通ってた小学校の近辺で通り魔が出るって噂があった時期もあるんです。
おかげで今でもあんな過保護で。
……感謝ももちろんしてますけど」


話しながらつい苦笑してしまう自分もいる。
もう成人した幼なじみに対して、過保護って言うのも微妙なもんだな、って気付いた。


ふうん、と鼻を鳴らしながら、先生は口元に手をやって何かを考え込んでいる。
何となく立ち止まったままでそんな樫本先生を窺っていると、先生はチラッと私に目を向けて、そして口の端を少しだけ上げて微笑んだ。


「……ねえ。そんなナイトみたいな幼なじみがいて、全く恋愛感情無かったの?」

「……は?」

「いやさ、これも結構お約束でしょ。
幼なじみから恋人に発展する関係。
しかも君達の場合結構特殊だよね。
大財閥の王子様と、研究主任の学者の娘。
そう言う関係になったら、むしろ親は喜ぶんじゃない?
あ。もしかしたら、結城君は『ナイト』だから、君の心に『ヒーロー』がいる事をよく思ってないとか」

「……それはないと思うんですけど」


さすがに健太郎が『ナイト』だなんて思った事はなかったけれど、健太郎との関係を勘ぐられた事は別にこれが初めてじゃない。


ある程度親しくなると、周りがみんなそう言う目で見てる事は気付くし、直接聞かれた事も数えきれない位あったから、樫本先生の言葉も珍しいものではない。
だからそんな事よりも、樫本先生がそんなベタな話に興味を示してる事の方が私には新鮮だった。
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