解ける螺旋
いつもと変わらない、って事に、何故かホッとしている自分がいる。
さっきの先生は、なんだかちょっと様子が違う様な気がしたから。


「はい。……あ、なんか奈月に用があるなら」


立ったままで話していた、私と先生の会話が途中だったんじゃないかと気にしたのか、健太郎は先生にそう言った。


「大丈夫。大した事は話してないよ。ね? 相沢さん」


同意を求められて、私も素直に頷いた。
慣れっこの話題だけど、健太郎の事を話してたなんて言ったら説明がちょっと面倒臭い。


「そうですか? じゃ、奈月、こっち」

「うん」


私は樫本先生に小さく頭を下げて、テーブルの上の荷物を持った。
奥のロッカーに向かう健太郎の後について歩き出して。


「……それでも君は、いつも彼に好意を持ってたんだ」

「え?」


先生の微かな声に立ち止まって振り向いた。
だけど先生はいや、と小さく首を振る。


「何でもないよ。ほら、早く話し合った方がいいんじゃないかな」


誤魔化す様に促されて、私は白衣を羽織る樫本先生を気にしながら、健太郎の背中を追い掛ける。


いつも好意を、って。
君って聞こえた様な気がしたけど。


――私の事かな。


何となく気になったけれど、先生は私に背を向けたままだった。


だけど一体何の事だろう。
言葉の意味そのものよりも、言い方に引っかかりを覚える。
なんだか普通に聞くには、日本語としてよくわからないと思ったから。


だけどもう一度振り返った時、樫本先生はもうパソコンに向かって自分の論文に取り掛かっていた。
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