解ける螺旋
「……全く、本当だよ。
気配を殺して忍び寄るなんて、悪趣味極まりない。
……相沢さん。罰として、僕にお茶を淹れて。紅茶がいいな」


ふわりと浮かべた笑顔を向けてくれて、私はやっとホッとする。


だけど。


「はいっ! 先生はストレートでいいんですよね?」


確認の言葉だけを発して、私はすぐに先生のデスクから離れた。


「アールグレイがいいな。ちょっと濃い目で」

「この研究室にそんな立派な茶葉ありませんって」


残念、と返って来た言葉は明るかった。


傍目にはいつもの先生、いつもの声、いつもの空気。
だけど私の心臓の鼓動がドキドキしたまま治まらないのは、得体のしれない『怖れ』のせい。
ポットのお湯でインスタントのティーバッグを使って紅茶を淹れながらも、私はさっきの先生の表情を忘れる事が出来なかった。


――だってあれは、『あの人』と同じ目。


誘拐された私を助けてくれた『あの人』が浮かべていた、あの険しい表情と全く同じ。
あれが先生のはずがないとわかっていながら、似過ぎていて混乱しそうになる。


それと同時に、自分の記憶すら揺らぐ。
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