解ける螺旋
私の命の恩人の『あの人』は、助けてくれた『ヒーロー』なのかわからない。
私にとっては間違いなく恩人でも、世間が捉える『あの人』は、私を誘拐した犯人そのものだから。


ううん、犯人ではなくても、私にとって害のある危険な人と思われている。


――まさか、ね。


私は脳裏を過った自分の記憶を笑って消し去ろうとした。
誰もが否定した。ありえないと言った。
だから私の記憶も、勘違いか思い違いなんだと。


『あの人』と樫本先生が同一人物である訳がない。
同一人物だと言うなら、それを科学で立証出来ないんだから、私の勘違いでしかないと納得するしかない。


そうわかっているのに、私の本能がまだ反論する。


だって、似過ぎてる。
今までは雰囲気が違うとか、そんな理由を付けて来れたけれど、今はもうそんな事じゃ納得出来ない。


――それでもありえないんだ。


その一言で、私はどうにか冷静になる。
その一言で、自分を抑える事は出来る。


だけど芽生える不安と疑惑は抑えられない。
そればかりは理屈じゃどうにもならない。


『あの人』が敵とか味方とかそんな次元の話じゃない。


ただ、怖い。


説明を付けられない事ばかりが起こる私の周囲。
その中心に居る先生を、私は怖いと思い始めていた。
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