解ける螺旋
「健太郎……? どうしたの?」


覗き込む様に見上げながらそう言うと、健太郎は唇を噛んでバイクの走り去った方向をただ眺めていた。


「……ああ、ごめん。なんか、ボーッとしてた。
……はあ。……お前さ、こんな目に遭ったって言うのに、やけに冷静だな」

「え? あの、健太郎。どこか怪我でも……」


心配になってその手を取ろうとして、何故か私は躊躇した。
だけど健太郎はそれには気付かずに、もう見えないバイクの姿を探して虚空を睨みつけている。
そして、呟く様に言った。


「……おかしいな。
俺、こんな風にお前を守った事が前にもあった様な気がする。
そんな訳ないのに。……こんな事がある訳ないのに」


健太郎の言葉に、伸ばした手を引っ込めた。


――そんな訳ない。


健太郎はそう言ったけど、私は確かにこうして守ってもらった記憶があった。
そう、些細な事なら確かに何度もあって、その度に健太郎が守ってくれた。


身の危険を感じるこんな事故も確かにあった。
私はそれを知っているのに。
なんでそれを、健太郎は覚えていないんだろう。


一瞬目の前の世界がグニャリと歪んだ様に見えた。


「健太郎……」


言いようもない不安に襲われて、私は健太郎の腕をとった。
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