解ける螺旋
「教授。
教授は人生の岐路に立ってある選択をした時、もう一方の選択肢を選んだらどうなったか、って考えた事ありますか?」


ほんの雑談程度にそんな話を振って見た。
そうすると思いの外食い付きが良く、もちろんですよ、と笑顔が返って来た。


「夢のある理論です。エヴェレットの多世界解釈。
たとえば私が物理学研究を続ける学者ではなく、一介のサラリーマンになっていたならば。
あなた達の様に若い方々と共に難しい理論を研究してはいない。
もっと現実味のある利益を追求する空論を並べ立てているんでしょうから」

「……夢、ないですね」


あまりにぶっ飛んだ返答に、教授らしいとは思いながら苦笑せざるを得ない。
そうですか? と首を傾げた教授は、笑いながらポットの方に向かうと、インスタントコーヒーを淹れて私にも持って来てくれる。


「ありがとうございます」


素直に受け取って口を付ける。
苦いコーヒーが少しだけ脳に刺激を与えてくれた様な気がする。


「そう言えば、あなたは面白い事を言っていましたね。
ほら、樫本君がこの研究室に初めて現れた時。
あなたの記憶の中のヒーローに、樫本君はそっくりだと言った。
そして同時にそれはありえないと結論付けた」


教授に言われて、ついビクッとした。
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