解ける螺旋
今こうして妻と並んで立って、静かに瞑想すると、やはり浮かぶのは娘を奪われたあの事件の事だ。


あの時の私達に、他に何か出来る事はなかったんだろうか。
言われた通りに金を用意して、受渡し場所にも行って、犯人の要求には答えたはずだった。


それでも救う事の出来なかった、何にも変えられない大事な命。


何故、と憤るのはとうの昔に止めた。
今はただ、どこで間違ったんだと悔やむだけ。


せめてもっと他に、私達が出来る選択肢が与えられていたならば――


与えられさえすれば、何だって出来たのに。
しかし全てが終わった今となっては、何もかもが『もしも』の世界でしかない。


隣の妻の横顔を見つめた。
涙を流す妻は、それでも穏やかに笑ってくれた。


だけど、『もしも』


もしも――


多くは望まない。


ただ私達は、娘が生きる事の出来る未来に続く選択肢を、与えて欲しかっただけだ。
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