解ける螺旋
たくさんの分厚い本を抱えた樫本先生が入って来て、私と教授の姿を見ると、不思議そうに首を傾げている。


「教授。文献探して来ましたよ。
デスクに置いていいですか?」

「ああ、樫本君。置いてもらえるかな」


返事を聞くと、樫本先生は黙って教授のデスクに歩み寄って、ドサッと音を立てての本の山を作った。
そして柔らかい笑みを浮かべて、私と教授を振り返った。


「和やかですね。何の話してたんですか?」


空気の流れを変えない質問。
それに教授は笑いながら答えた。


「タイムマシンの話ですよ。
ああ、樫本君なら過去と未来、どっちに行きたいですか?」

「……は?」


途中から現れた先生にとっては、教授の質問は突拍子がなかったに違いない。
少し微妙な顔をして私を見て、だけど直ぐに教授に視線を向けると、


「過去ですね」


と即答した。
その答えを聞いて、教授はやっぱり満足そうだった。


「どうもこの研究室には夢のある若者が少ないですね。
まあ、科学を研究する人間ならそれも必然かもしれません。
過去が変われば、いくらでも違う未来がそこにあるんですから」


結局教授は言いたい事だけ言って、樫本先生の持って来た文献を手に取りながら、自分の世界に戻ってしまう。
その様子を見て、私も樫本先生もちょっとだけあ然としたまま。


「……どこまでもマイペースな人だな」

「同感です」


変な所だけ気が合った言葉で、夢のお話は終わりを告げる。
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