解ける螺旋
本当は今この話題に参加した樫本先生に、もっと話が聞きたかった。


多世界解釈を齧った人間なら、教授が言ったタイムマシンの実現にも興味を持つ事になる。
そして先生が以前研究したと言う多世界解釈に対する考えを聞くには、絶好の機会だと思ったから。


「……あの。雑談だと思って下さい。
先生は過去に戻ったら、何をしたいんですか?」


呟く様にしか言えなかった言葉に、一瞬先生は黙り込んだ。
そしてほんの少しの逡巡の後、ポツリと呟いた。


「最初から生態学の研究をする」

「……は?」


予想の斜め上を行く返事だった。


「生態学、ですか?
……あ、実はうちの両親、生態学の研究者だったんですよ。
なんか研究の途中で遺伝子工学の実験にも成功したらしくて。
……この間の結城財閥での新薬開発パーティーも、それが成功した結果だったらしいんですけど」

「……そうらしいね」


会話のキャッチボールを進められる内容を選んだはずだったのに、ラリーが続かずに終わった。
だけど雑談程度でも樫本先生がそれ以上のってくれる様子は無く。


――やっぱりちょっと雰囲気変わったな。


それが寂しいのか。
それともやっぱり怖いのか。
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