解ける螺旋
――やだな、誰か早く来ないかな……。


まだ大学生の講義が終わらないこの時間、研究室には私と樫本先生が二人きりだった。
白衣を着て実験装置の前で何か思案している樫本先生を横目で気にしながら、私は書架で無意味に参考文献を探す。


そこそこの広さのあるこの研究室の中でも、二人きりだと思うと落ち着かない。
すぐ傍にいる訳じゃないのに、妙に速い鼓動が響いて聞こえそうで、考えれば考える程意識は樫本先生に集中して、更に焦って身体まで震えた。


やだ、本当にどうしよう。
自分の気持ちが物凄く混乱して、訳もなく泣きたくなった。


簡潔に単純に考えられる仮説を出すとしたら、私は樫本先生をすごく意識している。
意識して興味を持って関心を向けて、それが俗に言う恋愛感情だと言うなら否定しない方が多分楽。
先生の態度を気にしているうちに、私の方が落とされたんだと思えば、そんな事もあるか、と受け止めればいい。


だけど、素直に受け入れて自覚して納得出来るなら、何もこんなに混乱してパニックになったりはしない。
ただ恋をしていると言うのなら、私だってその方がいい。
先生の態度が好意と悪意のどっち寄りなのかはわからないけれど、翻弄されてる事がわかってるんだから、私はきっと先生に惹かれてる。


その位はわかる程度に大人のつもりだった。
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