解ける螺旋
だけど、簡単に納得する事を私自身が阻止しようとしてる。
それは危険だと警鐘を鳴らす。


――だって樫本先生は、相変わらず謎だらけだから。


先生自身が否定したし、私だってありえない事だとわかってるけど、どうしても引っ掛かる。
いくらなんでも、私の人生に関わる人で生き写しな程似ている人間が何人も存在するんだろうか。


十歳の私を犯人の手から助けてくれた人。
あの人がいなかったら、私はどうなっていたかもわからない。
もしかしたらなんとか解放されたかもしれないし、下手したら殺されていたって事も考えられる。
それは健太郎だって教えてくれた。


私の命の恩人。
強くて大きくて腕があったかかったのを覚えてる。
あの緊張感の中で口数も少なくて、厳しい表情を崩さなかったけど。
犯人の手から逃れた後、ホッとして泣き出した私の頭を優しく撫でてくれた。
もう大丈夫だよ、だから泣かないで、と。
繰り返し言い聞かせてくれた、少し低いくすぐったい声。


思い出せば出す程、『あの人』が犯人側の人間だなんて思えない。
たとえ敵だったとしても、私だけは『あの人』を信じたい。
そして『あの人』にそっくりな樫本先生が危険な人だとは思いたくなかった。


そうして私は、自分の奥底の何かが発する警鐘に、心だけで歯向かっている。
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