解ける螺旋
樫本先生にとってそんな事をする意味があるのかわからないけど、私は戸惑うばかりなのに。
ただ好きなんだと思えたらその方が楽。
なのに私は、樫本先生を同時に怖いと思っているから、翻弄されながらもどういう態度をとればいいのかわからない。


樫本先生に出会ってからは、いつもこんなモヤモヤした気持ちが続いている気がする。
だから二人きりになるのは結構頑張って避けて来たのに。
こういう時はむしろ、からかってくれた方がやり過ごせるのに。
無視されてたら却って気になって意識してしまうから。


――頼むから早く誰か来て。


どうしてこんな時に限って、健太郎まで外出してるんだろう。
緊張で息苦しさまで感じて、私は書架に背中を預けて大きく息をついた。
自分の気持ちを落ち着ける為に、顔を上げて高い天井を見上げて。


そして凍り付いた。


勢いよく寄り掛かり過ぎたのか、グラッと書架が揺れた。
そして乱雑に積み上げられていた本が、私目掛けて落ちて来るのが見える。


「……きゃああっ」


当たったらかなり痛いだろう、なんて咄嗟に思ったせいか、思いの外大きな声が出た。


――だけど。


直ぐに感じると思った痛みはなかなか訪れず、私は恐る恐る目を開けてギョッとした。


「……か、樫本先生!?」


私に覆い被さる様にして本の雪崩から庇ってくれた先生のおかげで、床に散乱している本の直撃を受けずに済んだのがわかった。
だけど代わりに樫本先生が本にぶつかった事は、その痛そうな表情でわかる。
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