解ける螺旋
「う、嘘!? 大丈夫ですか? どこか怪我は……」


慌てて先生の肩に触れて、途端に眉をしかめて顔を歪める先生に、私は反射的に手を引っ込めた。


「ど、どうしよう。
あんな本が当たったんだから、痛いに決まってますよね。私……」


慌て過ぎて何をしたらいいかもわからない。
だけど樫本先生は顔をしかめたまま、私の耳元でふうっと大きく息をついた。


「……大丈夫。ただの打ち身だと思うから。
ちょっと痛みが治まるまで、このままジッとしてて」

「は、い……」


ついそう返事をしてから、


「え? ……せ、先生!?」


私の身体に体重を掛けて、寄り掛かって来るというか重なって来る先生に、慌てて声を上げた。


書架に背中を預けたままの私に、先生が抱きついているみたい。
傍から見たらきっとそうとしか見えない体勢に、私はパニックしかけた。
先生は私に寄り掛かって痛みを我慢してるだけかもしれないけど、これじゃ、いくらなんでも密着し過ぎ。
あれだけ気にしていた速い鼓動が更に速くなる。
しかも触れ合った胸が、私の緊張を直に先生に伝えてしまう。


どうしよう。どうしよう。絶対に気付かれてる。


このまま気付かないフリをしてくれるとは思えない。
どう誤魔化せばいいんだろう。


焦れば焦るほどドキドキするのはわかっているのに、この状況で心臓が鎮まってくれないのはもうほとんど不可抗力だった。


そして。
樫本先生が私の耳元で小さく笑った。


「……心臓の音すごいけど、これって僕のせいかな」


『かな』なんて優しく聞かれても。
< 92 / 301 >

この作品をシェア

pagetop