解ける螺旋
書架と先生の身体に押さえつけられて、身動きが取れなくなった事に本能的な恐怖を感じて、


「離して……!」


咄嗟に声を上げようとしたら、先生は私の首筋に顔を埋めて来る。
ありえない展開に、もう思考がついて行かない。
暴れて逃げ出そうとした時、先生が私の耳元に囁いた。


「……君は僕をどう思ってるの」

「え?」


落ち着いた低い声に、こんな状況でも抵抗を止めた。


「君の態度はわからない。視線の意味もわからない。
……僕を惑わせたいの?」

「え……」


何を言われてるのかもわからなかった。


惑わせてると言うなら、それは絶対に先生の方だと思うのに。
なんで先生にそんな事を言われるのか納得出来ない。


「どうしてですか? ……そんなの先生の方がよっぽど!」

「自分で自覚なしなのかな。
君は僕を見る時、いつも何かを探る目をする。
僕と目が合うと直ぐ逸らすし、二人になると僕を避ける」

「そ、それは……」


言い掛かりだと言いたい。


だってそれは先生の態度のせいだし、私にだけ他と違う態度を向けられたら、そりゃあ警戒心だって湧き上がるのが当然だと思う。


「嫌われてるならそれでいいんだ。だけどどうやらそういう訳じゃなさそうだ。
少なくとも君は僕に何か興味を持って、それを探ろうとしてる。
他人の事を知りたいと思うのは、無関心な相手に対して生まれない感情だから。
……で、それがどういう感情なのか。
密着してみてわかったけど、君の胸は僕にもわかるくらいドキドキしてる」
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