解ける螺旋
「もう少し早く関心を持ってみれば良かったと思うよ。
意外と面白いデータが得られそうだから。
で? これは君の賭け引きなのかな。
君はいつも防御線を張ってる。
だけど俺の事が気になって仕方がないのは見てればわかる。
……焦らしてないではっきり言ってみなよ。
俺の事が好きなんだろう?」

「……」


先生の瞳を見上げながら。まだその腕から逃れられないまま。
私は宙に答えを探した。


好き? と聞かれて、好き、と言えたらどうなったんだろう。
だけど私はその返事を出来ないまま、ただ一言呟いた。


「……怖いです」


気持ちを聞かれて返す言葉じゃなかったのはわかる。
当然樫本先生は訝しげに眉をひそめた。
だけど今の私にはそれしかはっきりとわかる感情が見当たらず、ただもう一度言葉を繰り返した。


「だって私は先生がわからないから。
……探るとかじゃなくて、もっと知りたいって思います。
だけど……。
上手く説明出来ないけど、気持ちの一番根っこのところで、私が私に警告してる」

「……なんて?」

「近付くなって」


私の返した言葉に、樫本先生が一瞬目を丸くした。
そして少しだけ溜め息をつくと、私の肩をグッと掴んだ。
その力の強さに思わず顔をしかめて、声を上げようとしたら手で口を塞がれた。


「……!?」


当然抵抗しようとして、再度身体を寄せられて逃げ場を失くした。


「なるほど。君にとっての俺は危険人物なんだ。
まあ男としては、絶対安全だと思われるよりも危険だと思われた方が救いが持てる。
……そうだ、試してみようか」

「……え?」


低く耳元で囁かれた言葉にゾクッとしながら、お約束の様に聞き返した。
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