解ける螺旋
貪る様な、獣の様なキスだったのに。
急に甘くなる優しいキスに、私はただ混乱した。
怖いのに、わからないのに、震えていた腕を無意識に先生の背中に回して、クッと力を入れる。
自分がそんな事をした理由が説明出来ないけれど、それだけで絶え間なく浴びせられるキスがもっともっと深くなった。


なんだろう、この感覚。
先生がわからないって気持ちも、怖いって思う気持ちも変わらない。
なのに、こうして身体の一部分を深く絡め合うだけじゃ物足りないって思ってる自分もいる。


奪われているのに与えられている様な。
それが私の欲しい物なのか、望まない物なのかも判断出来ないまま。


――どうしよう。自分で自分がわからない……。


カクン、と身体から力が抜けた。
そんな私をしっかりと腕に抱きしめたまま、樫本先生は熱いキスを繰り返す。


本気でどうにかなる。
このまま拒めずにいたら、キスだけじゃ済まなくなる。
自分でもそう思って焦りを感じた時。


「……それ以上やるなら、場所替えてもらえませんか。
研究、進めたいんで」

「……!?」


突如響いた声に私はハッとして目を開けて、と同時に唇から温もりが遠ざかって行く。
それを少し残念に思う自分に戸惑いながら、私は声がした方に顔を向けて。


「……け、健太郎……!?」


堪らず、声を上げた。


「あ、あの、健太郎、これは……」


いつの間にか現れたのか、健太郎は入口に近い書架に凭れて腕組みをして、不機嫌そうに私達をジッと見ている。
< 99 / 301 >

この作品をシェア

pagetop