主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
結局晴明からも“息吹は連れて行った方がいい”と言われ、否定してほしかった主さまは唇を尖らせて式神の童女から出された茶を呷った。


「お前も来ないか。なるべく大物を連れて行きたい」


「隠神刑部(いぬがみびょうぶたぬき)やぬらりひょん、土蜘蛛などを連れて行った方がいいな。言っておくが奴らはお前が“ついて来い”と言わずとも勝手について行くぞ。百鬼とはそういうものだ」


「息吹はどうやって連れて行くんだ?」


「これに乗って行けばいい」


晴明が庭に下りて人差し指を口にあてて何かを唱え、その指で五芒星を描くと、


空から金切り声がして振り仰ぐと3本足の真っ黒く大きな鴉が舞い降りて来て、じっと主さまを見つめた。


「八咫烏(やたがらす)…?お前…こんなものも使役しているのか?」


「すごいだろう?この八咫烏が鬼八塚まで導いてくれる。息吹はこれに乗ればいい。揺れず、かつ速く、言葉も聞き分ける。言っておくが息吹に傷ひとつでもつけたら血祭りに上げてやるからな」


――もう傷つけてしまいました、とは絶対に口に出せず、晴明は八咫烏の大きな頭を撫でると主さまを指して言い聞かせた。


「しばらくはあれと私の娘を守護し、導いてやってほしい」


「かー」


返事をしたと思ったら一直線に空に向かって飛んで行って見えなくなり、晴明はまた天地盤の前に座って巻物に目を落とした。


「遅れるが私も行く。鬼八がちゃんと封印されているか見て来い。そして再封印を」


「言われなくともわかっている」


主さまが去っていくと晴明は笑みを消して息をついた。


「鬼八か…。封印はできても未だ殺せぬ悪鬼だ。さて無事に済めばよいが」


――その頃息吹は庭に出て、花に水をやっていたのだが…

頭上に視線を感じて見上げると、速くてわからないが何かが飛んでいるのが見えた。


ここは幽玄町。何が飛んでいてもおかしくはない。


「…?あれ、なんだろう?」


「どうかしたか?」


縁側から見守っていた雪男に声をかけられて息吹は首を振って笑った。


「ううん、なんでもない」


だが、飛んでいたものは息吹を見据えていた。


「…見つけた」
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