主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまが百鬼夜行から戻って来た時、雪男は縁側に寝そべって月をぼんやりと見つめていた。
「明け方に何をしている。寝ないと今夜は高千穂に出発なんだぞ」
「や、わかってるんだけど…ちょっと眠れなくて…」
主さまは、雪男の唇が少し赤くなっていることに気付き、耳を思いきり引っ張って起き上がらせた。
「いででっ」
「お前…まさか俺の寝室に入ったんじゃないだろうな」
「え…」
――過去に主さまの寝室に遊び半分で入った妖は、全員殺された。
例外はなく、たとえ言い訳をしたとしても主さまは絶対に許さずに太刀を振るってきたのだ。
…ぞっとした雪男は何度も首を振って否定すると、目を泳がせながら寝室を指した。
「息吹はぐっすりだぜ。熱も下がってるといいんだけど…ここには入れないからさ」
「…当たり前だ。入ったらお前とて殺すぞ」
すう、と瞳を細めた主さまは最強に恐ろしくて、
そそくさと立ち上がると地下の自室に逃げ込もうとして、呼び止められた。
「氷雨」
「!な、なんで俺の真実の名を呼ぶんだよ…」
「俺の目が届かない場合、お前が俺の代わりに息吹を守れ。高千穂では少々厄介なことになるかもしれない」
「…息吹が危険な目に遭うとでも?」
「わからない。お前、息吹に惚れてるんだろう?だったら命を懸けて守れ」
「……惚れてるのは俺だけじゃないだろ?」
「なに?」
主さまの瞳が金色に輝き、雪男が尻尾を巻いて退散すると、縁側の方から障子を開けて寝室に入り、ぐっすりと寝ている息吹の額に手をあてた。
「熱は下がったか。人とは弱いものだな」
しばらく頭を撫でていると息吹が起きてしまい、寝ぼけ半分なのかぽんぽんと隣を叩いた。
「お帰りなさい主さま…。ここ。ここに寝て」
「…男女同衾するべからず。熱が下がったのなら自分の部屋に戻れ」
「やだ…まだ眠たいもん。主さま、腕枕して」
――にこ、と笑いかけてきた息吹は儚く、いつぞやの夢の中に出て来た息吹そのもので、“これは子守りだ、子守りだ”と自身に言い聞かせながら一緒の床に入って腕枕をしてやると、嬉しそうに頬ずりをしてきて、
主さまの眉はぴくぴくと動いていた。
「それ以上は…やめておけ。子供に手は出さん」
精一杯の強がり。
「明け方に何をしている。寝ないと今夜は高千穂に出発なんだぞ」
「や、わかってるんだけど…ちょっと眠れなくて…」
主さまは、雪男の唇が少し赤くなっていることに気付き、耳を思いきり引っ張って起き上がらせた。
「いででっ」
「お前…まさか俺の寝室に入ったんじゃないだろうな」
「え…」
――過去に主さまの寝室に遊び半分で入った妖は、全員殺された。
例外はなく、たとえ言い訳をしたとしても主さまは絶対に許さずに太刀を振るってきたのだ。
…ぞっとした雪男は何度も首を振って否定すると、目を泳がせながら寝室を指した。
「息吹はぐっすりだぜ。熱も下がってるといいんだけど…ここには入れないからさ」
「…当たり前だ。入ったらお前とて殺すぞ」
すう、と瞳を細めた主さまは最強に恐ろしくて、
そそくさと立ち上がると地下の自室に逃げ込もうとして、呼び止められた。
「氷雨」
「!な、なんで俺の真実の名を呼ぶんだよ…」
「俺の目が届かない場合、お前が俺の代わりに息吹を守れ。高千穂では少々厄介なことになるかもしれない」
「…息吹が危険な目に遭うとでも?」
「わからない。お前、息吹に惚れてるんだろう?だったら命を懸けて守れ」
「……惚れてるのは俺だけじゃないだろ?」
「なに?」
主さまの瞳が金色に輝き、雪男が尻尾を巻いて退散すると、縁側の方から障子を開けて寝室に入り、ぐっすりと寝ている息吹の額に手をあてた。
「熱は下がったか。人とは弱いものだな」
しばらく頭を撫でていると息吹が起きてしまい、寝ぼけ半分なのかぽんぽんと隣を叩いた。
「お帰りなさい主さま…。ここ。ここに寝て」
「…男女同衾するべからず。熱が下がったのなら自分の部屋に戻れ」
「やだ…まだ眠たいもん。主さま、腕枕して」
――にこ、と笑いかけてきた息吹は儚く、いつぞやの夢の中に出て来た息吹そのもので、“これは子守りだ、子守りだ”と自身に言い聞かせながら一緒の床に入って腕枕をしてやると、嬉しそうに頬ずりをしてきて、
主さまの眉はぴくぴくと動いていた。
「それ以上は…やめておけ。子供に手は出さん」
精一杯の強がり。