主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
ぎりぎりまで晴明を待ったのだが結局現れず、鳥型の式が晴明の文をくわえて飛んできた。
「晴明様からだ…。なんて書いてあるんだろ」
わくわくしながら息吹が文を開くと…
『鬼八よりも主さまに気を付けるように』
意味が分からず首を傾げていると、背後からさっと文を取り上げられて一読した主さまが眉間に皺を寄せた。
「晴明め…」
「主さま…これってどういう意味?」
全くもって理解できていない息吹が八咫烏に跨ったまま首を傾げてきた。
未だ息吹の腰に手を添えている雪男の手を煙管で叩き付けながらそれには答えず、百鬼以上集まった妖たちを見回すと、号令をかけた。
「出発する。重々承知だろうが、鬼八塚はその場にいるだけで奴の怨念の毒気にあたることもある。その時はすぐさま退避だ。わかったか」
「また例の宿だろ?俺、あそこの女将が大好きなんだよなー。色っぽいし」
そう言ったのは鬼の顔に胴体は虎で、手足の長い蜘蛛の姿の土蜘蛛で、その話に興味を持った息吹が八咫烏の頭を撫でてやりながら身を乗り出した。
「どこかに泊まるの?女将さんが居るの?」
「おお息吹、よしよし話してやるとも。あの宿の女将はたいそうな美女でな、俺たちはいつかあの女将と主さまが夫婦になるんじゃねえかと…」
「土蜘蛛…余計なことを話すな」
――夫婦。
もしかして、自分が小さかった頃から主さまが大切にしていたあの絵の女性が、その宿の女将なのだろうか?
「そう、なんだ…」
声が小さくなって俯いた息吹がしょげていることに気付いた雪男は、息吹の腰をくすぐって身悶えさせると笑い声を上げさせた。
「ゆっ、雪ちゃん、くすぐったいよ!」
「女は凛としてなきゃ駄目だ。お前…せっかく…そ、その…可愛いんだからさ」
「え…、雪ちゃん…ありがと」
…いい雰囲気になってしまって、なおかつ誤解の解けていない状況に内心焦りまくっていた主さまは、
通りすがりがてら息吹の後頭部を軽く叩いて、空へと駆け上がった。
「…行くぞ。気を抜くなよ」
――高千穂で何かが変わる気がする。
主さまも息吹も、そう感じていた。
「晴明様からだ…。なんて書いてあるんだろ」
わくわくしながら息吹が文を開くと…
『鬼八よりも主さまに気を付けるように』
意味が分からず首を傾げていると、背後からさっと文を取り上げられて一読した主さまが眉間に皺を寄せた。
「晴明め…」
「主さま…これってどういう意味?」
全くもって理解できていない息吹が八咫烏に跨ったまま首を傾げてきた。
未だ息吹の腰に手を添えている雪男の手を煙管で叩き付けながらそれには答えず、百鬼以上集まった妖たちを見回すと、号令をかけた。
「出発する。重々承知だろうが、鬼八塚はその場にいるだけで奴の怨念の毒気にあたることもある。その時はすぐさま退避だ。わかったか」
「また例の宿だろ?俺、あそこの女将が大好きなんだよなー。色っぽいし」
そう言ったのは鬼の顔に胴体は虎で、手足の長い蜘蛛の姿の土蜘蛛で、その話に興味を持った息吹が八咫烏の頭を撫でてやりながら身を乗り出した。
「どこかに泊まるの?女将さんが居るの?」
「おお息吹、よしよし話してやるとも。あの宿の女将はたいそうな美女でな、俺たちはいつかあの女将と主さまが夫婦になるんじゃねえかと…」
「土蜘蛛…余計なことを話すな」
――夫婦。
もしかして、自分が小さかった頃から主さまが大切にしていたあの絵の女性が、その宿の女将なのだろうか?
「そう、なんだ…」
声が小さくなって俯いた息吹がしょげていることに気付いた雪男は、息吹の腰をくすぐって身悶えさせると笑い声を上げさせた。
「ゆっ、雪ちゃん、くすぐったいよ!」
「女は凛としてなきゃ駄目だ。お前…せっかく…そ、その…可愛いんだからさ」
「え…、雪ちゃん…ありがと」
…いい雰囲気になってしまって、なおかつ誤解の解けていない状況に内心焦りまくっていた主さまは、
通りすがりがてら息吹の後頭部を軽く叩いて、空へと駆け上がった。
「…行くぞ。気を抜くなよ」
――高千穂で何かが変わる気がする。
主さまも息吹も、そう感じていた。